ゆるり民藝 ―東北に暮らして(13)

2015年1月20日(火) 河北新報 朝刊くらし面掲載

会津の白磁
壺に千両 新年を寿ぐ

会津の白磁〜壺に千両 新年を寿ぐ

穏やかでゆったりとした、たたずまい。
控えめな艶が、千両の実を引き立てます

 「小柄な人は小紋が似合う」。子どものころ、そう聞いたせいか体形に合わせて身の回りには豆皿や豆びな、指先ほどの古酒用の杯といった小ぶりなものを求めるのが常になりました。

 大きな物に目がいくようになったのは10年ほど前。染織家の志村ふくみさんが、新しい年の象徴として白磁の大壺(つぼ)にセンリョウ(千両)を生けておられると著書で知ってからです。

 白磁の壺に赤い実を飾ったら、どんなにすがすがしいだろう。気長に探し、何年かたって出合ったのが高さ35センチの白磁の壺でした。

 福島県の会津で作られた壺は上部に膨らみのある縦長で、朝鮮の李朝時代中期を代表する形を写したもの。原型となった壺は、上層階級の厨房(ちゅうぼう)で穀物や油を入れたと伝えられています。

 東京の日本民藝館に所蔵されている李朝の白磁壺を見て、洋画から白磁の道に転じた美大生が、現在、会津で作陶する五十嵐元次さんです。学生のとき日本民藝館に毎日のように通い、李朝の温かみのある乳白色の肌や登り窯の火の回り方によって生じたゆがみを見てきました。

 「形でも色でもなく、あの李朝の世界を目指したい」と志して40年以上。家族からは「寝ているか仕事しているかのどちらか」と言われるほど手で量産し、全国の若手の陶工から「あの働きぶりはまねできない」と語られる存在です。

 たゆまず作ることで体が覚えているせいか、李朝への思いのせいか、五十嵐さんの白磁にはおおらかでのどかな親しみやすさがあります。そののどかさは、工房の窓から見える会津平野の田園風景と、まきストーブで暖を取りながら雪深い地で作陶する静けさにも通じている気がします。

 わが家の焼き物で傘立てに次ぐ大きさとなった白磁壺は、いつでも目に入る縁側廊下の突き当たりが定位置になっています。部屋を行き来するときに目に映り、外出先から戻ってくると玄関に行き着く前からガラス越しに出迎えてくれます。有ると落ち着く、無いと寂しくなる家族の一員といった感じです。

 枝物がない時季には壺として何げない顔で共に暮らし、正月花の千両を飾ると新年を寿(ことほ)ぐ清澄な気を届けてくれる。千両の時季が過ぎて1月下旬になると、壺には山形産の啓翁桜。まっすぐに伸びる桜の枝をたっぷりと飾り、春を待ちます。

季節や時間、天候によって異なる表情を見る楽しさも







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