ゆるり民藝 ―東北に暮らして(22)

2015年10月20日(火) 河北新報 朝刊くらし面掲載

宮床の箕
浜の道具 室内使いに

お風呂で読む本を5、6冊入れて持ち運んでも丈夫。10年使用の脱衣籠です

お風呂で読む本を5、6冊入れて持ち運んでも丈夫。10年使用の脱衣籠です

浜箕(はまみ)をご存じでしょうか。農具の箕より少し小さい約60a四方の箕のことです。魚のより分けやすくう作業に用いられたらしく、三陸から名取辺りまでの沿岸部で使われていたと言います。宮城県北では箕の先が三角にとがった「先有り」、県南では「先無し」が主流だったと、大和町宮床で長年箕を作られていた80代の方に教えていただきました。

現在も箕を作り、後継者を育てている佐藤朝治さん、紀恵子さんご夫妻も「七ケ浜や塩釜の魚捕りの人だべね。お正月に神様さあげんの。家を新築したときなんかも。野菜だり魚だり箕に入れて、神様にお供えしたんだっちゃ」と20〜30年前を振り返ります。

農具や神事に使われていた箕は、花入れやインテリアとして使われることが多くなりました。わが家では脱衣籠(かご)として使っています。高さのある部分でも約15aと低めで、タオルや衣類の出し入れがしやすいのです。お風呂で読む本を幾冊も入れてずっしりくる重さになっても、つぶれることがなく、持ち運ぶときも程よくしなり、折れない安心感があります。

その理由は、柔らかいすず竹です。県内の竹細工の産地として知られる岩出山では篠竹が使われていますが、「篠竹とすず竹は全然違う」と朝治さんは言います。篠竹は学名アズマネザサといい、岩出山で使われているのは1年物。ここ宮床では、すず竹で編まれます。横にすず竹、縦に桜の皮、それを藤づるでつなぎ、縁には「ソゾミ」と呼ばれるガマズミ類の枝を麻ひもで固定しています。

一つの浜箕に使うすず竹は約70本。ひごにすれば300本近くになります。均一に並んだ竹ひごがすがすがしく、使ううちにあめ色に。桜皮は落ち着きのある樺(かば)色になってきます。色分けされた模様だと思っていた箕面は、よく見れば竹ひごの表と裏が使い分けられていました。箕をあおり、もみ殻やちりを飛ばす本来の用途に合わせて、滑りのよい表と滑りにくい裏に編み分けられているのです。

知り合いの30代の女性は、小さな箕を台所で使っているそうです。里芋の土を洗い落とし、洗った野菜をすくうのに使い勝手がいいと言います。ざるや籠とはひと味違う箕。土や浜から遠ざかった暮らしの中で、素材を生かすこんな知恵があったのか、と気付かせてくれる生活道具になっています。







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