ゆるり民藝 ―東北に暮らして(48)

2017年12月19日(火) 河北新報 朝刊くらし面掲載

神酒口
節目を彩る端正な形

青森の神酒筋「宝船」。飾れば部屋がりんとした空気に

青森の神酒筋「宝船」。飾れば部屋がりんとした空気に

まだ宮城県民芸協会に入会して間もないころ、民藝に関わる展示を見ていると声が聞こえました。

「あ、ミキグチね」

ミキグチ?
そこには竹のひごで編まれた縁起物らしい竹細工がありました。何に使うのかも分からなかったけれど、端正な形に引き寄せられました。

正月にお神酒徳利(とっくり)に挿して神棚に飾る「神酒口」は、江戸中期から各地で作られてきました。呼び名もさまざま。素材も経木や竹、紙などあるようです。

ようやく手にしたのは数年後の12月。東京・駒場の日本民藝館で、全国の優品が集まる日本民藝館展の折でした。東京・あきる野市で作られた神酒口は、竹の皮をはいだひごで宝船や茗荷(みょうが)が形作られています。

日本民藝館の収蔵品には、19世紀に仙台で作られたと伝わる竹製の神酒口があります。宝珠が三つあしらわれた松のような形です。もしかしたら今も宮城県内で神酒口が作られていはしないかと訪ね回りましたが、見つかりませんでした。

竹細工の盛んな大崎市岩出山でも、神社から配られる御幣を飾ると聞きました。そんな中、子どものころ竹製の神酒口を見た覚えがあると教えてくださったのは「ギャラリー杜間道」のみわみちこさんです。

「祖母が飾っていたミキノクチは年ごとに焼却してしまうので、その形は頭の中にしかないんです。関東のように金や赤の紙をあしらったビビッドなものではなくて、もっと地味なもの」

楚々(そそ)とした正月飾りを届けたいと例年開く「お正月」展には神酒口も並びます。新潟で作られた桃のような形の経木製や、かぶとのような和紙製など。ことしは12月22日から、なくなり次第終了とのこと。

宮城から地域を広げれば、東北で今も作られている神酒口があります。青森県で「神酒筋(みきすじ)」と呼ばれる竹製です。作っているのは、群馬出身の曽祖父の技を受け継ぐ青森県在住の50代のご夫妻。取り扱う「つがる工藝店」では、12月中旬に行う「民陶作家と正月用品」展の会期後も対応可能といいます。

師走。神棚のないわが家でも、節目を彩る形として飾ります。首都圏では外国の方がオブジェとして求めることも多いとか。美しいものは国境を越えるのでしょう。「国と国とを交(むす)び人と人とを近づけるのは科学ではなく芸術である」。民藝の祖、柳宗悦の言葉に思いを託し、来る年がよい年でありますように。







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