ゆるり民藝 ―東北に暮らして(52)

2018年4月16日(月) 河北新報 朝刊くらし面掲載

50周年
見て、感じ、知る春に

「手仕事の国」と呼ばれた東北。50周年記念事業は、民藝の原点を見て感じる機会に

「手仕事の国」と呼ばれた東北。50周年記念事業は、民藝の原点を見て感じる機会に

「民藝」という新語が生まれて九十余年。手仕事の美しさを生活に取り入れ、心豊かに暮らそうと宮城県民芸協会が1967年に設立されて、50年がたちました。

発足当時の様子を、染織工芸家の渡辺つる子現会長は笑って懐かしみます。

「女子美術大を卒業して仙台に戻り、天江富弥さんのお店『炉ばた』で飲んでいたら、会を手伝わされるようになって。年配の方ばかり、あまり硬い話はなく、品物を見せてもらって育てていただいたの」

入会したのは当時、副会長だった天江さんの勧めでした。漆芸家や郷土史研究家と共に酒を酌み交わし、物を見て学んだと言います。白洲正子が青山二郎や小林秀雄に学んだ胃を病むような集まりではなく、サロンのような集いでした。一方で、活動にも力を入れ、節目ごとに仙台市博物館で企画展を開いてきました。

その企画展が、私の入会の機にもなりました。40周年記念展「柳宗悦と東北の民芸」です。真鍮(しんちゅう)の灰ならしを見て、秋田市出身の舞踏家土方巽が舞台で髪飾りにしたのはこの道具かと共感し、伊達(だて)げらの襟元の編み込み模様に感嘆し、丹精込めたこぎん刺しに見入り、装丁の美しい本にため息がこぼれ…。空間そのものが宝庫でした。

今回、50周年を記念した事業を企画し、三つの催しを予定しています。仙台市博物館の日本民藝館所蔵品による「手仕事の日本―柳宗悦のまなざし―」は4月20日から。担当学芸員の寺沢慎吾さんは仏教美術の絵画が専門で、「民藝は素朴なものとしか認識していなかったが、柳が美しいと感じたものがここにある。美術史的にも重要で、まず物を見てほしい」と力を込めます。

当会の濱田淑子副会長は「柳一人の目で選んだものだけが展示されるため、いつもの博物館とは雰囲気が異なると思う。別室では、博物館所蔵品の仙台・宮城の伝統工芸も展示され、柳の目との違いも分かるのではと楽しみ」と心待ちにしています。

5月に、博物館ギャラリーである「東北の手仕事のいま―暮らしの愛用品」展では、職人のワークショップや実演が。また、秋保工芸の里での手仕事体験、日本民藝館の深沢直人館長による講演会など2泊3日の「日本民藝夏期学校 仙台・秋保会場」も開催します。

知識から入るのではなく、まず見る。さまざまな視点から民藝を感じる春になりそうです。







TopBlogMailLinkFacebook
Copyright (C) 2008 Miki Otani. All Rights Reserved.