ゆるり民藝 ―東北に暮らして(57)

2018年9月17日(月) 河北新報 朝刊くらし面掲載

すり鉢でずんだ
用いて味わう美しさ

ずんだをするのに大活躍したすり鉢。使うことで、生活用具としての美しさにより近づくことができる

ずんだをするのに大活躍したすり鉢。使うことで、生活用具としての美しさにより近づくことができる

処暑を過ぎても暑さが残る8月下旬の夕暮れ。宮城県民芸協会の「夕涼みの会」が開かれました。会場は、仙台市太白区の福聚院です。持ち寄り歓迎の会費制のうたげに何がいいかと考え、ずんだ団子が浮かびました。というのも、豆の産地である角田市で、秘伝豆の生産者の方から手作りのずんだ餅をごちそうになったばかりだったからです。

参加予定は、十数人。ずんだ作りにちょうどよい直径が8寸(24センチ)のすり鉢もあります。ずんだは粗くすって、すり鉢ごと会場に持参し、皆さんの好みに合わせて仕上げようと考えました。

当日、仙台朝市で、さや付きの枝豆を約1.5キロ求め、家に戻って大鍋で蒸し上げると、台所にふわりと良い香りが立ち上ります。

あれっ? 焦ったのは、さやから一つ一つ豆を取り出すときです。こんなに時間がかかるとは。さらに、薄皮をむく作業は気が遠くなるほどです。結局、薄皮が付いたままの枝豆を山盛り入れた竹ざると、すり鉢を抱えての大移動になりました。

「ずんだを作ろうとする情熱がすごいわ」

いえいえ、作った経験はほとんどないのです…。

「えっ」

驚かれつつ、「枝豆を少しずつすると、すりやすいのよ」と会員の織物作家さんがすり始めます。続いて、工芸店スタッフ、呉服店店主、主婦、美術工芸館の学芸員ら、80代から30代の方々が作業を担ってくれました。

「1人暮らしでも、ひと夏に2度は作りますのよ」

「うちでは風味付けにお酒を入れます」

すり鉢を囲む声を聞きながら、薄皮をむきます。岩沼市出身の女性は50年ほど前を思い出し、「子どものころ、ずんだ作りとなると朝5時起きでした。薄皮をむき、すり鉢を押さえるのが子どもの仕事」と慣れた手つきで枝豆を打つようにすりつぶしていきます。すり鉢の赤茶色の肌に、枝豆の緑がさえています。

「あ、このすり鉢使いやすい。目の大きさや重さ、口の広がりが良いですね」

熟練のろくろ引きにくし目が施された、すり心地の良さも会員を引き寄せたところかもしれません。無事に、風味の良いずんだあんが出来上がりました。

皆さんにお礼を言うと、爽快な笑顔で「楽しかったわ」。若手からは「すてきなイベントを体験できた」という声も。すり鉢に救われて、ほっとした月夜の帰り道でした。







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