ゆるり民藝 ―東北に暮らして(58)

2018年10月22日(月) 河北新報 朝刊くらし面掲載

青森の根曲がり竹
技と食に共通する味

會田さんが使い続けて20年以上たつ、根曲がり竹で編まれた籠

會田さんが使い続けて20年以上たつ、根曲がり竹で編まれた籠

冬の果物といえば、古里の島根県で過ごしていたころは九州の親戚から届くミカンでした。仙台市で暮らすようになってからはリンゴです。産地は青森県津軽地方。収穫に使われていた籠は畑ではほとんど見掛けなくなりましたが、今も部屋で使う道具として全国に愛用者が広がっています。

材料に使われているのは、地元で採れるササの根曲がり竹です。東北は南方系の真竹の生育に向かず、竹細工にはササが多く使われてきました。宮城県の篠竹(しのだけ)、岩手県のすず竹など、地域によって使うササは異なります。中でも根曲がり竹はリンゴをたくさん入れても安心の強靭(きょうじん)さが特長です。

根曲がり竹の籠を使い続けているのが、津軽地方で育った青森市の會田美喜さん(75)です。父親は相馬貞三さん。民藝の祖、柳宗悦や板画家の棟方志功らと交流し、青森県に民藝を普及させた方です。相馬家の台所の片隅にはリンゴ籠が置かれていました。

「子どものころ、学校からただいまと帰ってくると、籠からリンゴを取り出して。おやつです。甘党の父には、母がすりおろしたリンゴに干し柿を刻んで入れていました」と會田さんは言います。

根曲がり竹は食用にもされます。ヒメタケといえば分かりやすいでしょうか。

「ここでは、タケノコといえば根曲がり竹のこと。お汁に入れたり、かゆ漬けみたいにサケと漬け込んだり。食べたことない? お正月のごちそうで、おいしいですよ。上手に作らないと食べられないんですけどね」

時代を経て作られ続けてきた、郷土料理と手仕事。似ていると思いました。會田さんが教えてくださった、タケノコのかゆ漬けは、サケとタケノコを発酵させて作る青森に伝わる食文化です。特別な材料を調達するわけではありません。自然の恵みから得た土地の素材を使い、受け継がれてきた作り方で仕上げます。

難しいのは、素材や作り方の条件を満たせば上手に仕上がるわけではないところ。結果として、いつもおいしく仕上がる陰には、素材選びの知恵、丁寧に手間暇かけた下ごしらえ、繰り返し作り続けてきた技の蓄積が欠かせません。手仕事も同じことが言えます。

「わあ、おいしい」「美しい」。一緒に「いいね」と喜び合えることが、日々の楽しさにもつながっていきます。







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