もものかさね − 桃のかさね


淡紅、白、萌黄の三重がさね


この時季になると思い出す方がいます。
加藤廉兵衛さん。
お目にかかったことはありませんが
鳥取で長く土人形をつくられていた方です。

その人形は手のひらにのる、ころんとしたかたち。
なかでも、黒衣をまとった男びなの表情に
特徴がありました。
しもぶくれの顔に、しゅっと目じりの上がった細い目。

ごきげんななめなのかと少し心配になるような
かといって怒っているわけでもない
愛嬌のある凛々しさといったらいいか。

その姿かたちから、つくり手の廉兵衛さんもきっと
ふっくらして目じりの上がった
おじいちゃんなのだろうと想像していました。

ですが、違っていました。
昨年96歳で亡くなられた廉兵衛さんを
特集した番組の映像を見ると
そこに映っていたのは
白いシャツに帆布のエプロンを身につけた
端正な細面の紳士でした。

その表情は、静かで哲学的。
腰かけて語る姿の後ろには
分厚い書物の並んだ書棚がありました。
物静かで孤高ともいえる男びなの表情に
通じるところがありました。

先の地震でわが家にあった
廉兵衛さんの男びなと女びなは
はらりと壊れてしまったけれど
今も「弥生壇」のお菓子をいただきながら
浮かんでくるのは、あの人形。

この弥生壇の白小豆の風味もそうですが
記憶にのこる良い味わいに、惹かれます。



【桃のかさね】
 
淡紅、白、萌黄の三色によるかさねの色目。桃を
表すかさねの色目には、淡紅と萌黄による二色も
あります。こちらは白をはさんだ三重がさね。その
配色は、桃の花、雪、新芽を表すといわれています。





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