2014年1月21日(火) 河北新報 朝刊くらし面掲載
女正月といわれる1月15日を少し過ぎたころ。日本の伝統色について知りたいと、染織家の方を訪ねたことがありました。
工房は仙台市青葉区の住宅地にある、昭和の趣をたたえた民家です。
居間に通され、こたつで温まりながら、ひとしきりお話を伺った後、蝋梅(ろうばい)の咲く庭が見える広縁に案内されました。
手織機が奥にあり、その手前に小さなテーブルと椅子が2脚。腰かけて待っていると、漆の小さな菓子皿と懐紙が運ばれてきました。
染織家の方は、また台所に戻り、何か用意されている様子。しばらく菓子皿の姿形を眺め、何か手伝えることはないかと、懐紙を三角に折りながら待つことに。
そのうちに朱塗りの小さな高杯と豆皿が運ばれてきました。高杯には、レンコンの甘酢漬けがひとひら。豆皿には、大根の薄切りでユズの皮をくるりと巻いたもの。その景色を喜んでいると、和菓子と細い菓子切りが運ばれ、そして、小ぶりの茶わんに茶せんも。
一つひとつはささやかなのに、並ぶと懐石のようで、それはそれは楽しい宴の席になりました。
「子ども用のお茶わんかもしれないけれど、ちょうど良いと思って」と出された渋い色味の小さな茶わんに抹茶と湯を注ぎ、それぞれがゆったりとお茶をたてます。
心なしか口まで小さくなった気がして、お菓子とお茶をいただいた後、箸を取り、レンコンを一口。歯触りよく、さっぱりとしてやわらかい酸味が広がります。手作りの味わいはもちろんですが、目に触れる器の形から、手にしたときのしっとりとした漆の肌合いから、丁寧な仕事ぶりが伝わります。自然と漆器の産地や塗師の話になっていきました。
気合を入れて食事を用意しなくても、あるものを小さな器に盛るだけで、すてきになるのだと知りました。温かい気持ちになって家路につき、戻ってからまずしたことは、漆の杯を箱から取り出すことでした。
それ以来、漆の小さな器をはじめ、古酒用の杯、おちょこ、食前酒によさそうな吹きガラスのグラスを並べ、その時々にあるものを盛り付けては、器遊びを楽しんでいます。