2014年3月18日(火) 河北新報 朝刊くらし面掲載
春浅いこの時季はもちろん、ほぼ1年中、朝起きると、まずお湯を沸かします。
鉄瓶に水を注ぎ、ふたをして中火にかけます。白い湯気がのぼったら火を止め、鍋つかみでふたを押さえながら、つるを持ってポットにお湯を移します。
長く火にかけなければ、つるはほんのり温かいくらい。熱くなりにくい空洞のつるもありますが、わが家で使っているのは、たぶん鉄の棒をたたいて作られたものです。
熱の伝わり方が遅いのは、鉄瓶の胴とつるが一体ではないからでしょう。胴についた環付(かんつき)を、先がY字に割れたつるでつかむ「つかみつる」の手法で作られているため、少し遅れて熱が伝わるようです。
といっても、ストーブの上に置いておくと熱々になるので、持つ前に必ず確かめるようにしています。
南部鉄瓶は全て鉄製ですが、つる専門の「鍛冶師」と胴専門の「鋳物師」の共同作業によって出来上がります。すっくと立って揺らぐことのないつる、飽きのこない形、語りかけてくる肌合い、落ち着きのある色、鉄瓶全体と調和する細工されたつまみといった見どころがあるせいか、飾って楽しむ人もいます。
わが家に鉄瓶が来たのは5年前。「昔使っていたものだけれど」と親族から譲られたものです。使って80年はたつという鉄瓶のふたを開けると、かなり赤くさびていました。
それでも「お湯を沸かして赤く濁らなければ大丈夫」と聞き、試してみることに。お湯を沸かして捨てるを2度繰り返すと、お湯が澄んできました。
さびているようでも使えたのは、さび止めがなされているからです。鉄瓶の中を手で触らないようにと言われるのは、さび止めの効果を持たせるためでした。
大変かと思っていた手入れはいたって簡単で、沸かしたお湯をポットに移した後、鉄瓶のふたを開けておくだけ。余熱で乾き、さびを防いでくれます。
やかんを持たず、鉄瓶一つで済ませているのは、手入れが要らず、長持ちするからです。そして、なによりお湯がおいしくなるから。とろんとして、まろやかで、こんなにも味わいが違うのかと思うほどです。
朝の白湯(さゆ)は一杯で終わることなく、もう一杯、もう一杯と飲みたくなり、まだ肌寒い季節の体を芯から温めてくれます。