ゆうゆう彩時記

ゆるり民藝―東北に暮らして(4)

2014年4月15日(火) 河北新報 朝刊くらし面掲載

曲げわっぱの力秋田杉 おいしさ彩る

長い年月に刻まれた年輪が、
いつものおかずを少し特別に見せてくれる曲げわっぱ

一目見て、「いいな」「好ましいな」と感じられるものがあります。どのような材料で作られているのか、どんな由来があるのかわからなくても、直観で良いと感じるもの。

その一つに、曲げわっぱがあります。友人が炊き込みご飯のお裾分けを曲げわっぱに入れて持ってきてくれた時、幾筋もの細かい年輪がまっすぐに現われた柾目(まさめ)や、ふわりとしたご飯が、とてもおいしく素敵に感じられたのです。

実際に使い始めてみると、それまで使ったことのあるプラスチックやアルミの弁当箱とは、明らかに違っていました。

ずっと苦手だと思っていた盛り付けが、曲げわっぱの弁当箱に詰めると、不思議と見栄えが良くなるのです。それはもう、急に料理の腕が上がったかと思えるくらい。ごはんは、ほのかに杉の香りがして、ふっくらと空気を含んだようで、冷やご飯とは言えないおいしさに変わります。

なぜそんなに味わいがよくなるのか。その理由は、天然秋田杉にありました。150年とも200年とも言われる樹齢が、ふくよかな味わいを生み出していたのです。天然秋田杉は、保存のため2013年3月に国有林での伐採が終了しました。現在は、100年前後の秋田杉も使われるようになっていると聞きます。

そこまで樹齢にこだわるのは、たおやかさが違うからだそうです。曲げわっぱ工房の方は「樹齢の低いものはバキバキ折れてしまう」と言います。高樹齢の折れにくい秋田杉を、煮沸してから曲げていく「湯曲げ」という技法で、丈夫に仕上げられています。

接着部分にあしらわれた桜の樹皮(樺)は、貼り付けたものではなく、きちんと縫い付けたもの。縫い目が工房によって異なるのも見どころの一つです。軽く、薄く、落としても割れることはありません。

その丁寧な手仕事と、なにより秋田杉が香るご飯のおいしさを知ってほしいと、めいたちへの高校進学のお祝いには、曲げわっぱの弁当箱を贈っています。見た目だけではない良さを、自然と感じてほしいと思って。

ごく普通の総菜であっても、ごちそうに見せ、おいしくする曲げわっぱ。木には年相応の風格があるといいますが、秋田杉の100年に及ぶ生命の風格が、おいしさを増しているように思うのです。

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