2014年5月20日(火) 河北新報 朝刊くらし面掲載
お茶の盛んな仙台では和菓子店に出合うことも多く、日々の楽しみに和菓子が加わりました。菓子職人の意匠や味わいへのこだわりは店の佇(たたず)まいにまで現れ、扉を開く際には背筋がすっと伸びるような気がします。
和菓子を語る上で欠かせないのが木型です。昭和54年、東京の日本民藝館で「日本の菓子型展」を企画・監修した当時の館長、柳宗理さんは「菓子型こそ元来、最も庶民的なものであり、庶民の心の美しさ、すなわち日本民族の生活文化の凝結した、最も日本的な純粋な姿を表わしていると言えるだろう」と記しています。
確かに木型は生活に密着したものでした。仙台でも慶弔の引き菓子は木型で打ち出した大ぶりな落雁(らくがん)だったと、仙台市青葉区柏木にある和菓子店のご主人に伺いました。昭和20年代に使われていた木型を見せていただくと、跳ねるタイ、尾の長いカメ、くるんと巻いたエビなどが生き生きと彫られています。ご主人によれば、「しっかり乾燥させた桜の木でないと、水分を吸って型がゆがんでくる」のだそうです。
良い木型は、材料を詰めやすく、型から抜きやすく、それでいて彫りや模様が美しいと雑誌『民藝』で読んだことがあります。もしかしたら、仙台近郊に木型職人がいたのではと和菓子店や駄菓子店に尋ねてみましたが、依頼先は京都、四国、栃木など県外ばかり。辛うじて数軒、独自の型を山形で作ったと聞きました。依頼先は、こけし職人や将棋の駒も作る木型職人といった東北らしい作り手です。現在の型は小ぶりで、和三盆の干菓子作りに使われることが多いようです。
干菓子を買い求めるのはお茶に通じた方だろうと思っていましたが、ある日の夕方、和菓子店で出会ったのは小さながまぐちを握り締めた小学校低学年の男の子。しばらく干菓子の前で迷っていましたが、かぶと形の落雁とハマグリ形の和三盆に決めました。150円を出してお釣りを受け取ると、手渡された透明な袋に入ったお菓子を見つめ、指でなでながらつぶやくのです。「かわいいなあ、かわいいなあ」と。
生活文化や伝統が映されたひとかけらに美を見つけ、純粋に感動する。その姿に民藝の本質を見た気がして、じーんときてしまいました。おやつに干菓子を求める子どもがいる仙台の街。ちょっと誇らしい気がします。