ゆうゆう彩時記

ゆるり民藝―東北に暮らして(6)

2014年6月17日(火) 河北新報 朝刊くらし面掲載

山ブドウの籠樹液の滴る梅雨が旬

使い始めて1年もたつと取っ手の部分からつやが出始め、
色合いも深まってきます

見知らぬ人に、よく話し掛けられます。コンビニエンスストアのレジで、地下鉄のホームで。決まって、山ブドウのつるの皮で編んだ籠を持っているときです。
「いいですよね。私も好きなんです」
「40年前、学生のころに求めたものを今も使っているんです。どんどんつやが出てきますよ」
籠が取り持つ、一言の縁です。

山ブドウの籠を知ったのは、仙台に暮らしてしばらくたってから。15年ほど前になるでしょうか。その後、民藝協会の方から「手でなでて脂でつやを出す」と聞いて、初めて手の脂を意識し、それが役立つこともあるのかと手のひらを見つめた覚えがあります。

その籠の材料となるつるの皮を切り出すのが、ちょうど今の時季。6月上旬から7月初めに当たります。会津と新潟の県境に住む作り手の方によれば、「入梅が早ければそれだけ早く採れ、梅雨らしい雨が続くと、いい皮が採れる」と言います。

1年で初めて山に入る際には一礼し、道具にもあいさつをしてから仕事を始めます。国有林の入り口から1時間ほど分け入った深山で、12メートルもの棒の先に付けた大きな鎌で男性2人掛かりでつるを切り、表皮をはいで材料の中皮をむきます。「太いつるなら直径10センチくらい。切り口からはポタポタなんてもんじゃない、バシャバシャと水が出てくる」のだとか。この時季をすぎると中皮は薄くなり、細工はしやすいけれど折れやすくなるそうです。切る時季へのこだわりが、東北らしいところです。

出来上がった山ブドウの籠は、粉を吹いたように白っぽく、けば立っています。クルミ油などを使わず自然のつやを出したいときは、たわしでこする、使う、を繰り返していると手の脂と相まって輝きのあるつやが出てきます。

夫の父から譲られた大きな籠は20、30年使い込まれ、漆を塗ったかのように黒光りしています。自分でも初めから使ってみたいと、山ブドウの籠を手に入れて約4年。物の出し入れがしやすく、感触が良いため、どこにでも持ち歩くようになりました。仕事の移動中など少し気ぜわしいときでも、なでていると不思議と心が静まってきます。

良いつやになってくれたとなで、つやが増すと、うれしくなってまたなでる。自分だけの色つやとなって愛着が目に見える籠を、もう手放せなくなっています。

編む前の山ブドウのつるの皮

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