ゆうゆう彩時記

ゆるり民藝―東北に暮らして(7)

2014年7月15日(火) 河北新報 朝刊くらし面掲載

土鍋で夏野菜地の味わいを生かす

夏野菜の水分にうまみが濃縮され、
軽くたいらげてしまいます

仙台朝市で熟れたトマトが山盛り売られているのを見かけたら、その日はラタトゥイユ(夏野菜の煮込み)に決まりです。

オリーブオイルにニンニク、タカノツメ、ベーコンを入れて弱火で香りを出し、ざくざく切った夏野菜を加えて炒め、湯むきトマトとローリエを入れて中火より弱い火で約20分煮込むと、野菜の滋味が引き出されて出来上がります。

鋳物のほうろう鍋を友人宅で借りて作った時、ずしりとくる鍋の重さと余熱の持ち方が土鍋に似ていると思ったのが最初。使ってみたらまさしく同じ味で、それ以来、夏にも土鍋が食卓に上るようになりました。

皆さんのお宅では、どのような土鍋をお使いでしょうか。焼き物に興味がある方なら、土鍋の産地で知られる三重県伊賀のものをお使いかもしれません。独特の白い土は耐火性があり、土鍋の適材とされています。

わが家の土鍋は、赤黒い宮城県の土が使われています。作り手は、栗原市の古民家にお住まいの方。民藝という言葉を生みだした柳宗悦の著書を読み、「その土地の材料を利用するのが本来の焼き物」と考え、周辺の地層から使える土を掘り起こし、陶土も釉薬も自ら作り、まきを燃料に登り窯で焼いています。

その土が焼き物に向いているかといえば、そうとはいえない様子。「火に弱く、赤黒いのが東北の土。優秀な土ではないんです。でも、良くないなりに美しいものができる土壌がある」と語り、引き合いに出されたのが古民家です。曲がった材料でも癖を生かして建てる。焼き物も、土の性質をよくわきまえて使っていく。同じことだと話されるのです。

「東北の登り窯は江戸中期以降に造られ、日本の窯の中でも歴史が浅く、重きを置かれていない。材料も良くない。それでも立派な働き者の器ができていたんです。欠陥のないものはなく、短所を生かす。その方がいいのではないか」と静かな口調で熱く語ります。

懸命に作っても、火に弱い土の性質から、壊れて焼き物にならない場合や、ゆがみが生じる場合もあります。ですが、この土地、この作り方でしか出せない肌合いや重厚さがあります。

効率よく働くより、美を求めて愚直に働く。その姿は、弱火でじっくり得も言われぬうまみを引き出す、働き者の土鍋に通じている気がします。

宮城の土を使い、ろくろ成形

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