2014年9月23日(火) 河北新報 朝刊くらし面掲載
「あら、いいですね」
しばらくぶりのあいさつを交わした90歳近い大叔母が夫のシャツに目を留め、素材に見入ります。
「うん、それはいいよ。どうしたの?」
70代の叔父もまた、興味深そうに尋ねます。父のいとこから譲られたものだと夫が答えると、「私なら譲らないなぁ」とまんざら冗談でもなさそうな愛嬌(あいきょう)のある笑顔。そこへまた叔母も加わり、「あら?」と目を留め、さっと袖口に触れて確かめます。
ことごとく親族の目を引いたのが、藍染めのシャツです。譲り主である父のいとこも親しくしていた方から譲られたものだとかで、少なくとも持ち主は夫で3人目。たぶん着始めて数十年はたっているでしょう。織り糸がふっくらとして、見るからに着心地がよさそうなのです。
美しさの基準は人それぞれですが、長く用いられたものが持つ風合いに引かれるのは、親族のみならず、民藝を愛好する人に共通しています。
そこには、処分するにはもったいないという気持ちよりも、美しさを貴ぶ気持ちの方がはるかに大きく作用しています。用いられて美しくなったものが受け継がれ、結果としてエコな暮らしにつながる。民藝がエコに通じると言われるところです。
染織品の中でも特に藍染めは防虫効果があり、保管に気を遣わずに済みます。気を付けることといえば、洗濯の際に洗剤ではなく、蛍光剤や漂白剤が入っていないせっけんを使うこと。少量のせっけんで洗い、脱水を軽くかけて陰干しすると、アイロンがけが楽になります。
藍染めが木綿を丈夫にするせいか、長時間着ていても、比較的しわになりにくいように思います。
2年ほど前になるでしょうか。藍がめに繰り返し浸けられて濃紺に染まった反物を求め、シンプルなチュニックを2着仕立てました。張りのある藍染め木綿が、カジュアルにも、少し改まった席にも合うので、真夏を除いてほとんど1年中愛用しています。
最近、その濃紺がかすかに和らいで青みがかり、染め糸の陰影がより感じられるようになってきました。そのわずかな変化が楽しく、洗濯やアイロンにかける時間も、ちょっとした喜びになっています。