2014年12月16日(火) 河北新報 朝刊くらし面掲載
鶴、亀、宝珠(ほうじゅ)、輪締め、棒締めなど、しめ縄の形には、さまざまあります。
この1年、わが家の玄関先に掲げていたのは俵締めです。すがすがしく豊かな気分にさせてくれるので、どんと祭でたかずに飾り続けていました。三つの俵を矢羽に見える縄で束ね、両端から延びた縄を上で交差させ、全体がひし形に見えます。その形は端正で、デザインに通じた人の創作かと思ったほどです。
それは、稲作の盛んな山形県庄内地方で作られたものでした。作っていたのは、地域の七、八十代の男性たちです。作り手の一人、斎藤栄市さんは昭和10(1935)年生まれ。「孫じいさんが作ったのが、うちさ飾られたものだっけ。形はもっと平らだのよの」。祖父のころから作られており、現在の福々しい俵形は30年ほど前からだといいます。
仲間内では「しめ縄 とおし」と呼んでいますが、特に名もなく、形のいわれも定かではありません。ですが、わらの節をそろえ、俵の中心を膨らませ、神棚の寸法に応じて俵のバランスに気を配ると「きれいになんだ」と、こだわりがあるのです。
もしかしたら庄内の風土に北前船が運んできた文化がとけ合い、美意識となっているのかもしれません。庄内は美的感覚に優れた工藝品の産地で、荷を負う背中当ての「ばんどり」は日本の農民工藝の代表ともいわれるほどです。
背景には、雪に耐える生活用具を自ら作ってきた歴史があります。斎藤さんも小学生のころから自らの雪靴を、中学を卒業するとみのを、若いころは夕食後に公民館に集まってわら工品を作ってきました。
斎藤さんが「宝物だ」と見せてくださったのは、数十年前の俵締めをほどいて手に入れた芯わら。俵のひな型にしているのです。
材料は、倒れにくく育てやすい品種「はえぬき」の短く太いわらではなく、長めで細くしなやかな「ササニシキ」。お盆すぎに行う青刈りは、「3センチでも長さが欲しいからの」と手作業です。わらは穂先から第一の節までの美しいミゴの部分に分け、左にねじる左ない。一般的に右ないのわら工品と異なり、神聖な結界を示すしめ縄は左ないとされています。
神棚を拝見すると、そこには悠々として清浄な俵締めが掲げられていました。神棚のないわが家では、この年末も青々とした俵締めを玄関先に飾ります。新たな年の無病息災と豊穣(ほうじょう)を願って。