立春を過ぎてもまだ寒いこの時季。食卓に上ることの多い土鍋やほうろくから、急がないことの大切さを教えられています。いきなり強火で熱すれば割れるもと。小さな火でじんわり温めてから、火力を上げていきます。
ほうろくは熱々にしてから使うと、お餅やおにぎりがくっつかずこんがり焼き上がります。白おにぎりをほうろくに載せ、じゅっという音がした後は、弱火で数分。軽く焼き色が付いたころに裏返し、仙台みそと実家の島根の手作りみそ、唐辛子を合わせて塗り、ぴりりとした味に焼き上げます。
その味は長く想像の中にありました。島根育ちで、焼きおにぎりといえば、しょうゆ味。みそ焼きおにぎりを知ったのは小学生のころでした。たしか東北を舞台にした物語の中に出てきたのです。
内容は忘れてしまったのに、雪の中で凍ったみそ焼きおにぎりを食べたという一節だけは鮮明に覚えています。「みそ焼き」というおいしそうな響きから、ちょっと焦げた香ばしい味に思いをめぐらせていました。
仙台で暮らし始めた二十数年前、初めて食べたみそ焼きおにぎりは、予想より少し塩がきいた甘みのある香ばしさでした。
自分で作り始めたのは、ほうろくを使うようになってから。焼き網では焦げついて無残な姿になってしまうお餅を、こんがりもっちり焼ける自信がついてからです。みそ焼きおにぎりも、形を崩さず焼くこつは、少し気長に待つこと。使っているのは、黒い素焼きのほうろくです。
神戸近郊に住む陶芸が趣味の友人が仙台で同じものを求め、見本に試作したところ、このほうろくのようにはパンがおいしく焼けなかったとか。
茨城県の筑波山麓にある真壁町でほうろくを作る横田安さんによれば、「それは土の違い」だと言います。地元で採れる鉄分の多い赤粘土は、昭和初期には盛んにかまどが作られたほど、火に強いのが特長です。平地に造られた窯でいぶして焼き上げられ、土地では「いぶし焼き」と呼ばれていたとのこと。江戸時代から受け継がれてきた作り方にも、違いがありそうです。
そんなことを考えながら今日も、熱いほうじ茶を入れ、ほかほか香ばしいみそ焼きおにぎりを頬張っています。