女性のための日本酒セミナーを受講したのは2年前。宮城県酒造組合による主催で、酒蔵見学をはじめ、料理との相性、美容効果などを学びました。何よりうれしかったのが、毎回の懇親会です。40本ほどの四合瓶が並んだ中から好みの味わいをみつける、ぜいたくな機会になりました。
ここ数年は、お花見となれば緋色のフェルトを敷いて、桜を見上げながらお酒を酌み交わしています。風情をさらに高めてくれるのが酒器です。たゆたうお酒が見える朱塗りの片口が、桜によく映えます。
日本酒好きではあっても量はほどほどなので、片口の大きさは手のひらサイズ。注ぎ口から胴の端まで9aに満たない片口を、布巾に包んで籠の片隅に入れて出掛けます。
桜を見上げて飲み、つまみを箸に取って、また飲む。言葉のやりとりがなくても、差しつ差されつの間合いが、とてもいいのです。片口のたたずまいにほれぼれし、触れたときの心地よさに花見気分が高まります。
告白すると、漆器の質の違いが分かるようになったのは、6、7年前からです。お椀ならお椀だけ見比べていると、姿形の美しさや静けさのある艶など、全体から醸し出される雰囲気のよさに気が付くようになります。最も違いが分かるのは、使ってみてから。手にひたっと吸い付く感じです。1年使えば品よくつやが増し、さらに風合いがよくなってきます。
この片口も漆を塗り重ねた厚みが手になじみ、しっとり吸い付いてきます。木地は、大崎市鳴子温泉の木地師が東北のトチを3、4年自然乾燥し、狂いやゆがみが生じないように仕上げています。
その後の仕事を同市鳴子温泉の塗師、小野寺公夫さんが引き継ぎます。木地の面取りから仕上げの上塗りまで、少なくとも80工程に上ります。長年使っても片口の注ぎ口がしっかり密着したままの技と知恵は、ベテランの塗師を一升瓶抱えて訪ね、語り合う中から学びました。
漆にテレピン油など溶剤を混ぜず、漆本来の耐久性を生かして仕上げます。乾燥や寝かせる期間も含むと、完成まで半年がかり。手のひらに収まる片口に、計り知れない手間と時間がかけられていました。
「手を抜けば自分の恥。良心が痛む」と語る職人から生み出される片口は凛として麗しく、桜とともに酔わせてくれます。