ゆるり民藝 ―東北に暮らして(16)

2015年4月21日(火) 河北新報 朝刊くらし面掲載

会津のにしん鉢
春を告げる郷土の味

会津のにしん鉢〜春を告げる郷土の味

新芽の時季を過ぎると、にしん鉢は煮物の器にワインクーラーに

長いこと、にしんのおいしさを知らずにいました。北海道から北前船で京都に運ばれた春告魚とも呼ばれるにしんは、出身地の島根県石見地方ではなじみの少ない魚です。その魚名を付けた鉢は、なおのこと縁遠いものでした。

数年前の春、民藝関係の料理上手の方から頂いたのが、にしんの山椒(さんしょう)漬けです。地味な見た目なのに、山椒の香りとにしんのうま味が溶け合ったおいしさに、箸が止まらなくなりました。

その味が好物という会津本郷焼の宗像窯8代目宗像利浩さん。妻の眞理子さんは「会津では山椒の新芽が出る4月末から5月にかけて身欠きにしんが1キロ入りの箱で売られるんです」と毎年数十キロ漬けます。

作り方は8分干しの身欠きにしんを米のとぎ汁に漬けて戻し、にしんと山椒の葉を交互に重ねて酢・しょうゆ・酒の漬けだれに浸し、1週間ほど置きます。家庭によってみりんを入れる方もいますが、ざらめを少し入れるのが宗像窯の味です。

約400年の歴史があり、東北最古の焼き物と言われる会津本郷焼。その代表であるにしん鉢を作っているのは、実は眞理子さんです。「ろくろは神聖なもので、男性の仕事。にしん鉢はたたらで作る女性の仕事なんです」。たたらとは、板状にした粘(ねん)土で形作る技法のこと。5枚を張り合わせる作業を眞理子さんが行います。

材料の的場陶土は、会津を治めていた蘆名氏の山城の弓の練習場があった所から採って貯蔵している粘着性の高い陶土です。「益子の濱田庄司先生が、その技法を試されたそうですが、益子の土ではできなかったそうです。こちらの土は簡単に付くので、風土から技法が生まれたのでしょう」。

身欠きにしんを切らずに入れられる25センチ幅が本来の大きさですが、わが家の鉢は冷蔵庫に入りやすい21センチ幅です。今年こそ自分で作ろうと、にしんの山椒漬けをくださった方から新芽を分けていただきました。

漬けてから、指折り数えて1週間。味がなじんだころにしん鉢を食卓にどんと置き、食べたいだけ取り出します。眞理子さんから教わった、皮目を軽くあぶった香ばしさもお酒が進む味。にしん鉢を思い付いたのはきっと会津の食いしん坊に違いないと想像しながら、この時季だけの味で一献傾けています。







TopBlogMailLinkFacebook
Copyright (C) 2008 Miki Otani. All Rights Reserved.