ご飯茶わんの隣に、焼き物の汁わん。それは、実家がある島根県の習慣かと思っていましたが、松江市の窯元などで使っているのは木のおわんとのこと。焼き物の汁わんは、若い時を九州で過ごした父と、同じく九州出身の母の影響だったようです。とはいえ、九州でも家庭によって異なるようですが。
東北でおわんといえば、漆塗りでしょう。青森の津軽塗、岩手の浄法寺塗、秋田の川連漆器、宮城の鳴子漆器、福島の会津塗をはじめ、漆塗り工房も数々あります。
東北で暮らすようになって初めて買った漆のおわんは、自分の手におさまる朱塗りでした。「身度尺(しんどじゃく)」という身体の寸法に適した器の大きさを知らないころでしたが、選んだおわんは両手の親指と中指で作った円と同じ大きさ。片手で持ち上げやすいサイズとしっとり手に吸い付く感覚に、自分の漆わんを持ったうれしさがありました。
出産祝いに小さな漆のおわんを贈ると喜ばれると教えてくれたのは、夫の母です。聞いたとき、あのしっとりした漆のおわんに口を当てる幼い子どもの姿が浮かびました。贈られた親が使う日を心待ちにする時間があり、何年も使い続けられる漆のおわんを、いつか贈りたいと思い続けてきました。
この春、年若い友人に男の子が生まれました。贈ったのは、会津塗の直径9aの朱塗りのおわんです。
少したって届いたメールには、お食い初めと題して写真が添えられていました。黒い塗りのお盆に贈った朱塗りのおわん、そして豆皿や片口、大人用の汁わんなど合わせて朱塗りが七つ。一つ一つにお赤飯、はまぐりのお吸い物、煮物などが並んでいました。友人が手持ちの漆器から選んで組み合わせ、料理はお母さんと手分けして作ったのだそうです。ご家族のいとおしく思う気持ちが伝わってくるようでした。
この秋には、夫の妹が仙台に里帰りして女の子を出産しました。大きなおなかで過ごしているころから誕生が待ち遠しくて、生まれた翌日、まだ目を開いていない小さくて温かい赤ちゃんを抱っこしました。こんなにも幸せな気持ちを周りの大人に運んできためい。その小さな口が食べ物に一生困らぬように、朱色が穢(けが)れを払うように。人生で最初に触れる漆のおわんに、願いを託す思いです。