ゆるり民藝 ―東北に暮らして(24)

2015年12月15日(火) 河北新報 朝刊くらし面掲載

聖夜に蜜ろう
温かな灯に心静まる

部屋が蜂蜜色に包まれ、透き通った溶け口に見とれてしまう

部屋が蜂蜜色に包まれ、透き通った溶け口に見とれてしまう

街行く人の歩みが速くなる師走。その間を縫うように両手に食材を抱えて帰り、クリスマスの準備を始めます。大抵は日が暮れてからの買い出しになるので、メニューは毎年ほとんど同じ。チキンやバーニャカウダなど、レシピを見なくてもできるものばかりです。

気ぜわしく切って、焼いて、蒸して、夜9時近く、ろうそくに灯をともします。小さな灯が大きくなり、ろうそくの溶け口から蜂蜜色が透け、暗い部屋に浮かび上がると、ふぅーっとしばらく見とれてしまいます。心を静めてくれる温かみのある灯は、ミツバチの巣から採れる蜜ろうを原料にしたろうそくです。

日本のろうそくは、奈良時代に仏教の灯明として中国から伝わった蜜ろうそくが始まりでした。貴重な輸入品であった蜜ろうそくが手に入らなくなると、松ヤニろうそく、漆やハゼの実から作る木ろうそく、そして石油系のパラフィンろうそくへと移り変わってきました。

養蜂が盛んな山形県朝日連峰の山麓で、養蜂業を営む家庭に育った安藤竜二さんが、「無駄巣」と呼ばれる巣板の外にできた巣を使って蜜ろうそくを作ろうと思い立ったのは、1988年のことです。古い巣が混ざると色や香りに影響するため、安藤さんの工房「ハチ蜜の森キャンドル」では、ミツバチが作って1週間ほどしかたっていない新しい無駄巣や蜜ぶたを使います。

温めれば粘土のように扱いやすいため、安藤さんは当初、花や果実といった凝った形を作っていました。

「すると、ともさずに飾られてしまうんです。ミツバチがせっかくきれいな色をもたらしてくれた。その色があせないうちにともしてもらえるように、工芸店で『用の美』というものがあると教わりました」

ともしたときに美しい素直な形に。用が美を生む力となって、無駄のない健やかな形が定着しました。その黄みがかった濃密な色は、東北の森に多くあるトチやキハダなどの花粉が溶け込んだ天然の色です。

クリスマスの夜、ゆっくり食事をした後、灯のともる芯を溶け口に浸して火を消します。溶け口からかすかに上る香りも、ほんのり甘く、満ち足りた気分になります。健康で、無駄がなく、謙虚な蜜ろうそく。東北の森に生きる人とミツバチたちによって育まれた、自然からのたまものです。  







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