この前、おせちを囲んだと思ったら、もう3月。お彼岸が近くなりました。
仙台に移り住んで約40年の栗原市出身の方は、19歳まで過ごしたふるさとの春を思い出し、「お彼岸には、草餅にきな粉をまぶしたのがお重に入っててね。昔は何かっていうと、お重だったよね。お花見、田植えを終えたときのさなぶり。運動会は必ず重箱だよね。いなり、のり巻き、煮物…」とおいしい思い出を、先日のことのように語ります。
お正月を過ぎれば、しまわれることの多いお重。わが家で次に登場するのは、桜の時季です。最初は、ほんの30分ほど桜の下でお酒を酌み交わそうと、小さな丸重に生ハムやチーズ、桜の花漬けを添えたおにぎりなどを詰めて近所に持って行っていました。
緋(ひ)色のフェルトを敷物にしてお重を広げ、花見酒を交わす。そんな話を夫の両親にしたら、酒好きの息子夫婦がまた変わったことをといった感じで笑っていたのですが、開花が近づくにつれ母は「ことしもお花見行くの?」と意外に興をそそられたようで、家族4人で行くことに。
料理は結局いつもの卵焼き、菜花のからしあえ、たけのこの煮物、チーズといったもの。ばっけ(フキノトウ)みそを添えたおにぎりを詰めました。二人会となった昨年は、出身地の島根の押しずしの型で簡単な角ずしを作りました。
最近はプラスチックのお重にも使い勝手の良いものがあります。漆塗りのお重は何が違うのかと言えば、重ねるときの響きの柔らかさ、手にしたときのしっとりとした質感、漆の奥行きのある艶といえるでしょう。いつもの料理であっても、よそ行きに見せてくれ、苦手な盛り付けを手助けしてくれるのです。
桜を見上げながら2時間ほどお重を囲み、「またね」と手を振ってお開きにする。それだけなのですが、時間以上に満たされた気分になります。
帰ってからお重をスポンジで洗い、油が気になるときは洗剤で洗い流します。手入れといえば、洗ってすぐに拭くだけ。思いの外、漆塗りは丈夫です。
お重が見直され、首都圏のホテルでは和のアフタヌーンティーとして3段重にサンドイッチや甘味を入れるところも多いようです。焼き菓子も合いそうと思いつつ頭に浮かぶのは、おはぎやかしわ餅。お重を横に、広瀬川を眺めながらお茶もよさそうです。