夏が近くなると、床にネコの毛がふわりと舞います。水分を含んでいる茶殻を新聞紙に取って湿りを移し、小さくちぎりながら茶殻と共に床に散らします。サッサッサッ。ほうきで掃くと、かすかにお茶のいい香り。掃除機からは逃げ回るネコも、すぐ近くで眺めています。
使っているほうきは、栃木県鹿沼市の職人の手によるものです。鹿沼ほうきといえば、柄の付け根にほうき草が貝のようにぷっくりと編まれたハマグリ型が特徴です。わが家のほうきの付け根は平たいため、鹿沼ほうきとはいえないのでしょうが、直径2aの黒竹の柄が持ちやすく、切りそろえたほうき草が密で掃き出しやすいのです。
島根の実家でほうきといえば、座敷用の棕櫚(しゅろ)の長柄ほうきでした。ところが、仙台で周りの人に聞いても「棕櫚のほうきはなじみがない」といいます。ヤシ科の棕櫚は西日本で、ほうき草は東日本で主流という地域性のようです。ちなみに秋田名産のとんぶりは、ほうき木の実。「10年ほど前までは、実を採った後、枝を外ほうきにしていた」と生産者の方に伺いました。
大崎市で子育てをしている30代の女性が使っているのも、ほうき草のほうきです。実家のマンションでは、夜の掃除にほうきを使っていました。結婚を機に「ちゃんとしたほうきが欲しい」と求め、今は幼い子どもが「眠っているときにササッと掃除」しています。
ほうきの形はいろいろで、軽くて細い竹の柄、柄までほうき草の共柄。穂先が、自然のままのもの、切りそろえたものがあります。岩手では自然のままのほうきが多く「隙間の奥まで掃き出しやすい」という声もあれば、一方で、切りそろえたほうきは断面ができ「コシがあって掃きやすい」という声も。持ちやすく掃きやすいのが、自分に合うほうきです。
良いほうきの条件には、形崩れしにくい耐久性も重要です。穂先に癖がついたら、霧吹きなどで湿らせ手で整えて。すり減ったら切りそろえて。長さが半分ほどになっても、外ほうきとして使えます。
自然のものを生かす技と工夫が、掃いている手を通して伝わるからでしょう。掃き終えた後、心がすっきり穏やかな気持ちになるのです。ふとしたとき、掃除しようかな、という気になる。掃除への苦手意識を薄れさせてくれる道具です。