女の子が生まれたら桐(きり)の木を植え、代々の嫁入りたんすに備えたという奥会津の福島県三島町。縄文時代から身近な植物を編み、生活道具としてきた土地柄です。
東北は「手仕事の国」、そう呼んだのは民藝の祖、柳宗悦です。三島町はいまもヒロロ、またたび、あけび、山ぶどうのつるなどでバッグやざる、籠(かご)の編み組みが盛んな、東北を代表する手仕事の里です。
関東以西ではざるや籠を真竹で編むのが一般的ですが、雪が2bを超える地に真竹は育ちません。笹の根曲がり竹はあっても堅い性質のせいか、かんじきの枠に使いはしても食物用のざるには肌のきれいな木のまたたびが使われてきました。
そのまたたび採りは、雪が積もる少し前、11月ごろからひと月ほどの期間です。限られた材料のため夏ごろには品切れとなり、使う人、作る人、配る人、みんなが首を長くして雪の季節を待っているというのが、いまの時季です。
それなら少し早めに採ってはと考えたくなるところですが「早々に使えば、それだけの寿命しかない」と諭すのは、94歳の五十嵐文吾さん。三島町で、またたびの米とぎざるを作り続けて70年になる最長老です。
暦の上だけではなく状態を見極め「完全に熟した時に採る。そうするとね、光が全然違うんですよ。皮をむいたとき色が走り、光が違う」のだそうです。先輩や納めた先から「笑われ、怒られ」ながらも、反骨の精神と編む面白さから広く見聞きし、丈夫に美しくを心掛けてきました。
本来の用途に合った「がっちりとして、底の四隅を数_高めた水切れのよい作り方」で、名人と呼ばれるまでになりました。寒ざらしで丈夫にすると言われる米とぎざるは、白みがかった色合いが2、3年もすればあめ色に深まってきます。
軽さ、柔らかさ、そして見入ってしまうきれいな編み目。そこに米を入れ、すすぐようにひと混ぜ、ふた混ぜして洗うとき、手に触れるまたたびの肌が、しっとりと優しいのです。米粒が壊れることもなく、炊き上がったときのつやにも、一役買っているような気がします。
ご飯好きの和食党なので、使っているのは5合用の米とぎざるです。それでも、ときどきパスタという日もあって、そんなときは湯切りざるに。不思議と水跳ねしない、名前以上の働き手です。