ゆるり民藝 ―東北に暮らして(35)

2016年11月15日(火) 河北新報 朝刊くらし面掲載

肥料振りかご
丈夫な美しさ 身近に

桜皮に沿った2本のひごは装飾と補強を兼ねた「力竹だと思う」と朝治さん

桜皮に沿った2本のひごは装飾と補強を兼ねた「力竹だと思う」と朝治さん

地酒好きのわが家には、一升瓶が10本近く並ぶことが少なくありません。銘柄に合わせて器も選べるように、折々に求めたぐいのみが出番を待っています。ぐいのみが入っている持ち手のついたかごは、民藝愛好者の間で「肥料振りかご」として親しまれています。作っているのは宮城県大和町宮床の佐藤朝治さん、紀恵子さんご夫妻です。

「この辺りでは、げすざるって言うの。肥料振りかごなんて言わないっちゃ」

昭和11年生まれの朝治さんは、子どものころ、父親がかごに入れた肥料を手でまく作業を見ていました。再現してくださったその姿は、さながらミレーの「種まく人」のようです。

いま見れば、肥料を入れるには惜しい端正なかご。その美しさには、伊達一門である宮床伊達家の士族が副業として始めたことが影響しているのかもしれません。

箕作りの技が生かされた農具のかごは幅約38aと大ぶりでしたが、現在は大32a、中27a、小21aのかごも作られています。雑誌などで紹介されたことで、東北はもとより、関東や奄美大島にまで送ることもあるといいます。求める多くは30〜40代の人たち。編みかけの毛糸入れやマガジンラックなどに普段使いされています。

材料のすず竹は、11月から12月初めが採りごろです。山から採ってきて四つ割りに、さらに二つに裂いて均等な厚みのひごを作ります。そのひごも、使う人の手を傷つけないように天日に干した後、もんで角を取ります。山桜の樹皮とすず竹をきっちりつなぐひもは、藤の中皮を裂いたものです。持ち手にする杉は、程よく曲がった枝の皮を削り、かんな掛けされています。

縁を留める麻糸を除き、材料は全て宮城県北の山で採れるものです。材料の調達は朝治さん。編むのは紀恵子さん。そして太めの唐竹で枠を仕上げるのは朝治さんです。

「弱かったら使う人だってやんだっちゃ」

飾るものではない使うものとして、宮床に伝わる技で編まれているのです。その丈夫な美しさが評価され、全国の手仕事から優品を選ぶ「日本民藝館展」において最優秀の「日本民藝館賞」を平成25年に受賞しています。

重い物を入れても安心な丈夫さと使い勝手の良さで、わが家も見回せば、ぐいのみ入れに、野菜入れ、ネコの餌の収納に。しっかりと生活を支えている、宮城が誇るかごです。







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