ゆるり民藝 ―東北に暮らして(36)

2016年12月20日(火) 河北新報 朝刊くらし面掲載

かま神
表情険しく愛らしく

目には見えないかま神様のたなごころに、乗せられた心地になる

目には見えないかま神様のたなごころに、乗せられた心地になる

確か20年近く前。遠野ふるさと村の曲がり家で、初めてかまどの神様を見ました。薄暗がりにぬぅーっと見えた50aもある長い顔は、分厚い唇に大きな鼻のぶぜんとした表情。能や伎楽、神楽などの面とは明らかに違いました。

宮城県から岩手県南部にかけて、旧家のかまど近くの柱や壁に祭られた巨大なかま神は、旧仙台領を中心とする地域独特のものです。

東北歴史博物館の笠原信男副館長から「素材は基本的に土と木があり、目には貝や茶わん、ランプのホヤをはめているものもあります。山間部では木製、海岸部では土製が多いといわれ、あわびの殻が埋め込まれているのは土の方です」と教えていただきました。

実はしみじみいいなと思ったかま神様には、あわびの目が入っていました。栗原市に暮らす陶工の古民家に、そのかま神様はあります。いろりを見下ろす目は上がり気味で白く輝き、味のある端正な顔立ち。こんなかま神様もあるのかと、煙にいぶされつつ見入ってしまいました。

かま神に限らず、沖縄のシーサー(屋根獅子)も、神社のこま犬も、時代をさかのぼるほど、自由で伸びやかです。同じ形のものはほとんどなく、険しい表情であってもなんともいえないユーモラスさや愛らしさがあります。

国内外のあまり着目されていなかった分野にも目を配り、その価値を認めて収集した染色家の芹沢C介は、かまど神を応接間に掛けていました。

東北福祉大学芹沢C介美術工芸館に再現されている応接間には、木彫りのかまど神が掛かっています。鼻筋が通り、彫りの線がくっきり見える角張った頬。別格の美しさです。収蔵品には、縮れた木目を額のしわに見立てたものもあります。

わが家にかま神様はありませんが、活力をつけたいときに出会える所があります。うなぎ・会席料理の開盛庵さんです。「先代の父の元に自然と集まったもの。子どもさんが見ても怖がらないんですよ。ただ飾るのではなく、いつもきれいにして手を合わせる心で飾るからでないかしらね」と語る3代目の鈴木禮子さんも和やかです。

そのかま神様は、黒々した肌から透ける木目も大きな目も穏やかで、つい語りかけたくなるお顔。火伏せや家の守り神という家の内だけでなく、そこに集う人までも見守っているかま神様です。







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