酉(とり)年。お酒に縁のある年です。酒つぼをかたどった「酉」の字が、もともとは酒を意味すると知ってから何となく親しみがわいてきました。だから、というわけではないのですが、今年の元日はお酒が進み、集まった家族4人で一升が空きました。
年の初めは、特別に大吟醸です。白化粧の徳利(とっくり)にお酒を入れて、酌み交わします。元日と夏の数カ月を除けば、1年の大半がお燗(かん)。人肌燗からぬる燗の35〜40度くらいが好みです。
東北で暮らし始めてから、日本酒を飲むようになりました。石巻の「日高見」を飲んで、おいしいと感じてからです。始まりは冷酒でしたが、すーっと体になじみ、じわじわ温まってくるお燗へと変わってきました。燗酒の楽しさを覚えたのは福島の「大七」から。常温ではちょっと苦手に感じた味が、ぐるんと好みの味に変わる変貌ぶりは、同じお酒とは思えないほどでした。
「生(き)もと造りですね」と伝統の製法をふんわり笑顔で話すのは、地酒と旬の肴(さかな)で知られる仙台の居酒屋「一心」の柳澤寿美子さん。
「銘柄にもよるんですけど、うま味がしっかりある生もとや山廃仕込みは燗上がりしますから」
店では燗銅壺(かんどうこ)で湯せんしていますが、家で飲むならと教えてくださったのが蒸す方法です。
「お酒の入った徳利を蒸し器に入れ、ふたをして2分おくとおいしくなりますよ」
燗酒を好む平塚敏明さんは、塩釜市にある「阿部勘酒造店」の杜氏(とうじ)です。この1月は仕込みの最盛期に当たります。それでもお酒は欠かさない様子。
「基本的に毎晩飲んでいます。普段は白磁の徳利で、レンジで温度むらをなくして。土ものの徳利は、ちゃんと湯せんでつけるときですね。感覚的なものですけど」
量を飲みたいからと話す平塚杜氏は「うま味の多い生もと系より、香りが抑えめでうま味も軽め、酸の締まりがある酒だと飲み続けられる」とのこと。そこで伺ったのが、阿部勘の純米辛口です。聞けば、味わいたくなるもの。
鉄瓶で温めたお湯に、お酒を入れた徳利をたぽんと漬けて。湯気で汗ばんできたくらいで取り出します。小さめのおちょこでひと口。まだ、もう少し。好みの温度に近づけていると、すっきりとして酸味がほどよく立ってきました。温度計も時計も使わず、ゆるりと味わう燗酒。東北の冬によく合います。