ゆるり民藝 ―東北に暮らして(42)

2017年6月20日(火) 河北新報 朝刊くらし面掲載

藍染め
色移らず冴える濃淡

藍を身にまとうと、すーっと気分が落ち着いてくる

藍を身にまとうと、すーっと気分が落ち着いてくる

どうしてこんなに藍染めを着るようになったのだろう。いつの間にか1年の大半を藍染めで過ごすようになりました。藍に引かれたのは色名からでした。瓶覗(かめのぞき)、水浅葱(みずあさぎ)、縹色(はなだいろ)、褐色(かちいろ)など、淡色から濃色まで本で見ては、いつか藍をまといたいと思っていました。

藍染めの反物が1bで2千円ほどと知ったとき迷わず1反求め、知り合いに前開きのワンピースとチュニックを仕立てていただきました。一つ気になっていたのは、色移りの心配です。というのは以前、濃いインディゴのデニムワンピースが、生成りのコットンパンツに色移りしたことがあったからです。

「よい藍染めは色移りしない」と聞きましたが、どうだろう…。色移りがなかったことから、安心して白いブラウスにも合わせるようになりました。

なぜ色移りしないのか。その理由を、栃木県益子町で200年以上続く日下田藍染工房の日下田正さんに教えていただきました。

「天然藍だけで染めた藍は、色移りが少ないんです。極端に色移りするのは、天然藍と合成藍のインディゴピュアによる割り建てでしょう。すくもの割合が少なくインディゴピュアが多い場合や、短い時間で濃く染めた場合は色移りします」

「すくも」とは、藍の葉を発酵させた染料のもととなるもの。産地の徳島では今は5軒だけと生産量が限られています。大量に安価に染めるにはコールタールから抽出したインディゴピュアが使われます。天然藍による発酵建ては希少で、現代では割り建てがほとんど。良心的な工房では、すくもの配合量はもちろん、染めと洗いを丁寧に繰り返すことで色移りを防いでいます。

日々着ている藍染めは、夏が近くなるとザブザブ水洗いすると気持ちのいいものです。絞ってみると、水が煎茶の薄い色のようです。色移りはしなくても、わずかに藍の粒子が水で流れているのです。5年ほど着ては洗うを繰り返した藍染めは、当初の濃紺から瑠璃色へと冴(さ)えてきました。

藍染めを好む方もさまざまで、あるバイオリニストは決まって藍染めの衣装だとか。栗原市の正藍冷染(しょうあいひやぞめ)を応援している濱田淑子さんは「初夏になると藍染めをまといたくなります。新緑の色が深まるころ、緑を背景に歩くと藍染めがとてもきれいに見えて」と自然の色との取り合わせにも目がいく様子。そんな声を聞くと、藍に寄せる思いが一層深まるのです。







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