ゆるり民藝 ―東北に暮らして(45)

2017年9月19日(火) 河北新報 朝刊くらし面掲載

樺の茶筒
素材生かす職人の技

開けるたび、ちらし皮、磨き皮、皮を重ねたつまみに会える

開けるたび、ちらし皮、磨き皮、皮を重ねたつまみに会える

白いシャツが似合う長身。細く伸びた指が、茶筒の下地となる経木にニカワを塗り、数枚重ねて筒状に形作っていきます。わずか0.5_経木がずれただけで、茶筒のふたを開けるときの吸い付く心地よさは消えてしまう。緻密さと丁寧さが求められる、山桜の皮による樺(かば)細工の仕事です。

秋田県仙北市角館の米沢研吾さん(38)は、樺細工職人になって14年。約90人いる職人の中で最若手です。

仙台のデザイン系の学校へ進み、その後、東京へ。映画の美術制作の手伝いをしていたころ、工業デザイナーの柳宗理を特集した雑誌を手にします。

柳宗理デザインのカトラリーなどを使っていた米沢さんは、宗理の全てを知りたいと国立国会図書館に通いつめ、そこで、父であり民藝の祖である柳宗悦の記事を目にすることに。紹介されていたのが、角館の樺細工や職人でした。子どものころから見慣れていた、取り立てて興味がなかった茶筒の美しさを見いだした瞬間です。

24歳で帰郷し、弟子入り。道具の小刀で手を切ることも、熱したコテでやけどをすることもありつつ、目で見て、体で覚えていきました。

独立後、手仕事の優品が選ばれる日本民藝館展に応募したのは「審査委員長の柳宗理さんに会いたくて」。既に退任していたため会えなかったものの、応募作は入選。以後、毎年入選を続けています。

米沢さんの茶筒の特徴は、銀皮、ちらし皮、磨き皮など、自然が育んだ素材を生かす見事な配色です。特に、直径5.5aの細身の茶筒や、皮を重ねて細工するつまみなど、小さなものほど印象に残ります。

一人黙々と仕事を続ける、地味で地道な日々。いかにモチベーションを保つか。「それが一番大事」なことだと言います。支えとなったのは、角館樺細工伝承館の館長や工芸店の店主でした。親子以上に年が離れていましたが、物を見て意見を交わし、共鳴し合えたことが乗り越える力になりました。

作った茶筒を持っていけば、大いに喜んでくれる存在。「褒められるより喜ばせたい」一心でした。13年には日本民藝館展奨励賞を受賞。ことし、伝統工芸士に認定されました。

支えとなった店主は他界し、館長は退任し、いま自らを奮い立たせるのは自分自身です。郷里の名工がのこした茶筒や印籠に触れ、隅々まで見る。物との対話が、米沢さんの道しるべとなっています。







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