籠好きとして知られる人がいます。仙台市泉区の住まいには、東北の山ぶどう、あけび、すず竹で編まれた籠をはじめ、フランスの柳、北欧のシラカバ、アメリカのカエデの籠など。その数は、ひと部屋が埋まるほどです。原点は、小学生のころにありました。
祖母が手にしていた、ヒロロのような素材で編まれた籠です。昭和30年代、時代の先端としてプラスチックが生活に入り始めたころでしたが、自然素材で作られた「いいものに囲まれて暮らしたいと思った」と振り返ります。
美大へ進み、工芸を学び、日本のものだけでなく、海外のテキスタイルやプロダクトにも目が向くようになりました。気に入ったものを一つひとつ選んでいく日々。物選びの基本には「良質な素材、培われた技、シンプルなデザイン」がありました。
いま玄関先には、秋田の名人が編んだあけびの丸籠を置いています。入れているのは、インドの革製スリッパ。どちらも20年ほど使い、生成りだったスリッパは琥珀(こはく)色に変わってきました。
「日本のものと海外のものがけんかせず、引き立て合っています。手仕事の本物同士が響き合って」
その一言から、思い出したことがあります。民藝という言葉を作り、価値観を見いだした思想家の柳宗悦に「複合の美」という考えがあったことに。
「野に多くの異なる花は野の美を傷めるであろうか。互いは互いを助けて世界を単調から複合の美に彩るのである」
社会が一つの価値観でなくてもよいのではないか。その中で優位になろうとしなくても、よいのではないか。そこに平和への思いを読み取る人もいます。
籠好きの人は語ります。「フランスであれば、水辺に育つ水分を含んだ柳。アメリカの北部であれば、シェーカーボックスにも使われるカエデ。秋田であれば、地面をはうあけびなど、その土地の気候や環境から良い素材が育ちますから」と。
熱帯には熱帯の、北欧には北欧の、東北には東北の、風土に根差した暮らしから生まれた民衆的工芸品があります。
「物を選ぶことは、考えること。生き方にまでつながっていました」
それぞれの地域に培われた美を認め、尊重し合うこと。画一化されがちないまの時代こそ、心に留めておきたいことです。