ゆるり民藝 ―東北に暮らして(56)

2018年8月20日(月) 河北新報 朝刊くらし面掲載

ヒロロ細工
自然が生む生活工芸

節子さんのヒロロのバッグ。モワダ(シナノキの中皮)とアカソを組み合わせて編み、トチの実をボタンに

節子さんのヒロロのバッグ。モワダ(シナノキの中皮)とアカソを組み合わせて編み、トチの実をボタンに

「ヒロロ」。このかわいらしい言葉からバッグが浮かぶ人は籠好きでしょう。ヒロロは学名をミヤマカンスゲ(深山寒菅)といい、奥会津の福島県三島町でも山あいで採れる細長い草のことです。

三島町は総面積の9割近くを林野が占めます。雪深く、冬には編み組みが盛んな土地柄です。縄文時代から籠を編み、江戸後期ごろからヒロロでみのなどを編んできました。三島町生活工芸館で初めてヒロロのバッグを見たときは、こんなに美しいものがあるのかと感動したほど。中でも群を抜いていたのが、久保田節子さんの作です。

今年米寿になる節子さんを訪ねたのは、猛暑の日。家の軒先にはみのがかかり、居間には冷房など不要な涼風が吹き抜けていました。窓からは深緑の山並みが見え、野鳥の声が届きます。

「今でもみのを着るよ。かっぱは汗をかくけど、みのは汗をかかないから」

通気性に優れ、雨を通さないヒロロのみのを羽織り、畑仕事をしています。

節子さんが子どものころ、家族が使うげんべい(雪靴)や草履などは家々で作っていました。いろり端で見よう見まねで編み始めたのは小学3年生のころ。

「よくできたなあと、母ちゃんが褒めてくれるのがうれしくてやるわけ」

近くの集落に嫁いだ先でも、両親と祖母がヒロロを編んでいました。

「いいなと思ったら、ほどくのよ。メモしながら」

出来上がりが楽しみで、熱中する性質。節子さんは町から請われ、生活工芸館が1986年に開設した当初から、町の人に8年にわたって指導に当たりました。

当時を伝え知る工芸館の星ルミ子さんから「スカリという山菜採りの籠を原点にバッグに工夫したのも、アカソを編み始めたのも節子さん」と聞きました。街で使えるようにバッグの形に。トチの実を「この土地の高級なものだから」とボタンに。節子さんは自らの技や縄のない方を教え、ヒロロ細工は町を代表する工芸品になっています。

全国から求められる特産品ですが、館長の板橋淳也さんは量産を目標にはしないと言います。「工芸品のために生活するわけではなく、あくまで生活の中で工芸品を作れるように」という考えからです。

8月には、夏休みの自由研究で地元の小学生が編み組みを体験します。自然の素材から生活工芸品を作る楽しさを知ること。「ものづくりの里」の知恵が、受け継がれていきます。







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