藍染めの洋服を仕立てていただいたことのある90代の方から、「ワンピースに作り替えてもいいから」と着物を譲られたのは数年前。その着物は紅型(びんがた)で、水色の地に赤や黄色の花鳥がちりばめられていました。いつか着てみたいと思っていた紅型です。そのまま袖を通すことにしました。
ですが、着物初心者にとって、紅型に取り合わせる帯は難題です。紅型と自分の好み、どちらにも合う色が見つからず、見つかったかと思えば袋帯で、街着の着物と礼装の帯では調和せず。かといって、心にしっくりこない帯を合わせる気持ちにもならず…。長い目で探すことにしました。
街で色無地や訪問着を見掛けることはあっても、紬(つむぎ)や紅型といった普段の着物姿に出合う機会は限られています。自分を振り返っても、頂いた久米島紬に袖を通すのは、年に1度あるかないかです。できれば袖を通したい、着物の取り合わせもいろいろ見てみたい。何より美的感動を共有したいと、所属する宮城県民芸協会で「民藝きものの会」を呼び掛けたところ、会員の「きものゝ老舗にしむら」の西村艶子さんが全面的に協力してくだることになりました。
その会のことで西村さんを訪ねたとき、たまたまお目に掛かった方がいます。「にしむらさんとは40年の付き合い」という仙台市青葉区にお住まいの女性です。その方がまとっていたのは、淡い群青色の糸で細かな十字の絣(かすり)が施された藍色の紬。同じ淡群青を基調とした帯と帯締めと半襟が、物静かで穏やかでした。そこに合わせたトンボ玉は西アフリカのシェブロン玉、更紗(さらさ)の帯揚げのあかね色も効いて、どれもが生きた着こなしです。
着物生活50年というその方は、「自由に楽しめるようになったのは、ここ10年ほど。気に入ったものを一つ一つ求めて、組み合わせています。紬や絣は気楽に着られる普段着の楽しさがあって。袖口から襦袢(じゅばん)がのぞくところにも美しさがありますよね」と襦袢をちらり。立ち居振る舞いに着物が溶け込んでいます。
美しさは「調和の相(すがた)」だと言った柳宗悦の言葉が浮かびました。調和の内容、深さ、美しさをどう受け取るかが大切なこと。「民藝きものの会」では会員の紫紺染、柿渋染め、結城紬などの取り合わせを見られそうです。どのような会になるのでしょう。11月24日の当日を待つばかりです。