師走も、もうクリスマスイブ。今年もホームスパンのマフラーにくるまれて食材を買い求めます。料理はたいていエッグベーカーでバーニャカウダを作り、土鍋にはラタトゥイユ。骨付きチキンを焼いて、南部鉄器の燭台に蜜ろうキャンドルをともします。
ビューローに並ぶ吹きガラスの中から夫と自分用のグラスを選んでテーブルに並べ、ワインを開けます。特別なものは何もありません。心にかなう道具との静かなクリスマスです。
「民藝」という美の概念を知り、生活に取り入れるようになってから10年。自分が少し変わってきたように思います。対話できる道具が増えてきたことが一つ。物の扱い方が少し丁寧に。書く文章からは華美な修飾語が減ったようにも思います。日々の暮らしでどのようなものを用いるのかという選択が、これほど自分に影響を与えるとは思ってもいませんでした。
「民藝」は93年前、思想家の柳宗悦らによって作られた言葉です。貴族的工芸とは異なる、民衆が日常使う道具の中でも、ある特質を持つもののことです。その特質とは、自然で素直で簡素で丈夫で、ある程度量産できるもの。共に暮らして落ち着くもの、親しさの出るものです。実用的な美しい「もの」と、その土地固有の文化を大切にする「思想」が、民藝の両輪となっています。
本来の意味が理解されるより先に、「民藝」の言葉だけが独り歩きして、郷土色のある土産物や民具といった誤った認識で広まりました。かえって民藝を知る人の方が、気を使って語っている状況です。多くは学術的な観点や作り手の技、工程から語られています。
柳宗悦が詠んだ句に「見テ知リソ 知リテナ見ソ」があります。まず見てから知りましょう、知ってから見ないようにという意味です。民藝について、知識ではなく、見て使った喜びを伝えることはできないだろうかと思いました。日々共に過ごす喜びを。これまでの記事から、わずかでも感じ取っていただけたなら幸せです。
連載は今回で締めくくりとなります。5年間、東北の季節や日々の暮らし、民藝についてじっくり見つめる機会をいただけたことを心から感謝しています。
クリスマスが過ぎれば、青々としたしめ縄を飾り新年を迎える準備です。「ゆるり民藝」に目を留めてくださった方も、健やかな日々となりますように。