くちなしいろ − 支子色
もの言わぬ暖かみの黄
ぽっかり浮かぶ「秋月」を見ていると
いいことも、気になることも
まあるく収まる気がしてきます。
めいっぱい広がった丸から
ふと浮かんだのは、向田邦子さんの『字のない葉書』。
小学一年の末妹が疎開するとき
父親から自宅あての葉書を渡され
元気だったら丸を書いて送るようにと言われます。
まだ字を書けなかった妹から届く葉書は
最初は、はみだすほど大きな丸だったのに
だんだん小さな丸になっていくという話。
ひと筋の線で、くるりと丸を書くだけでも
その時々の心情があらわれるんですね。
ときに、言葉を尽くしても
もどかしい思いになることもあれば、
多くを語らなくても通じあうことがあります。
わかりあうために言葉はとても大切なものだけれど
大きくうなづくだけでいいときも
多い気がします。
【支子色】
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かすかに赤みのさす濃い黄色。秋が深まったころ熟
す、くちなしの実で染めた色のことです。この実は、 熟しても口を開かないことから「口無し」と呼ばれ、 支子色のことを「言わぬ色」ともいいます。平安の ころ、皇太子が身につけた「黄丹(おうに)」の色 に似ていたことから、禁色にされたこともあります。 |