ひとつ、またひとつ、と集めてきたもの。
手にしたのは、そこに作り手の想いが感じられたからです。
ふとしたときに眺め、ふれることで、
いつもと違う気分になれるもの。
そんな愛すべきものたちが、小さな幸せをとどけてくれます。
イチイの木の茶筒
我妻こけし製作所
まるい外蓋を開けると、あらわれる無垢な表情の中蓋。やや大きめのつまみに、文様のような繊細な木目。茶葉にたどりつくまで、ひと呼吸する間を与えてくれる茶筒です。
しまっておくより目にふれるところにと、置いているのは書棚の目の高さ。茶葉は数回で飲み終えるくらいの、ほんの少しの量にして、茶葉をこまめに入れるのを繰り返しては、中蓋を見て楽しんでいます。
この「中蓋が命」というのは我妻こけし製作所の二代目、我妻 敏さん。仙台市秋保町にある「秋保工芸の里」に暮らし、工房で作り、同じ場所に構えた店で販売も行う職人さんです。
宮城県にはこけしの系統がいくつかあり、地域名から、弥次郎こけし、鳴子こけし、作並こけしなどと呼ばれています。
我妻こけし製作所で作っているのは、三日月形の目に特徴がある遠刈田こけしの系統。こけしとともに、ろくろで挽いて作ってきたのが挽物です。
椀や盆、茶筒などが挽物にあたり、それを作るのがろくろ師(木地師)。ちなみに、板を指しあわせた箱や机、箪笥などを作るのは指物師になります。
こけし材は、たいていミズキですが、茶筒はさまざま。ケヤキやクロガキなども使われます。その中から選んだのが、イチイでした。
作り手の敏さんにとって「イチイは素直な木で、細工がしやすい」良さが。こちら使い手にとっては、明るい飴色に、細やかな木目、装飾を加えられていない茶筒には木の風あいを楽しめる良さがあります。
このイチイ、漢字で書くと一位となり、その名のとおり位を表しています。古代に正一位の役人が手にする笏(しゃく)の材料であったことから、名づけられたのだそう。笏とは、聖徳太子が手にしている、あの板状のものです。現在は、飛騨高山の一刀彫りの材としても使われています。
イチイの材は、我妻こけし製作所では北海道から取り寄せ、工房で加工しています。このとき、木目をいかにまっすぐに見せるかに技が表れます。角度や切り方などを考え、手仕事から生まれる茶筒。その木目は、心地よいほどまっすぐ。蓋と身の木目をおおよそあわせると、茶筒になる前の姿を思わせます。
長く使うほど赤みが増してくるというイチイ。ときどき乾拭きしながら飴色を眺めていますが、日々ともに過ごしていると、あまりわからないもの。何年か過ぎて、ある日ふと色の変化に気づくものなのかもしれません。
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