ひとつ、またひとつ、と集めてきたもの。
手にしたのは、そこに作り手の想いが感じられたからです。
ふとしたときに眺め、ふれることで、
いつもと違う気分になれるもの。
そんな愛すべきものたちが、小さな幸せをとどけてくれます。
りんご釉の抹茶碗
元窯 鈴木 智
古民家で、窯元のご主人が抹茶を振る舞ってくださったとき、目にとまったのが器の色でした。白磁ではあるけれど、どこか温かみのある色あい。手になじむ肌あい。それは、りんごの枝を焼いた灰釉によるものでした。
宮城県の村田町に暮らす窯元のご主人鈴木智さんが、近所のりんご園に積み上げられたりんごの枝を釉薬にと思い立ったのは、10年ほど前。1998年ごろのことです。
りんご園では、陽あたりをよくして、りんごに栄養が行き渡るように余分な枝を落とすため、剪定された枝は山積みになるほど。薪に使われていたものを、鈴木さんが灰釉として再生しています。
木質の締まった堅木から採れた灰は、上質な釉薬になるといいますが、りんごの木も堅木。そのりんご釉による、東北らしい作品です。
一般的には赤みのさした仕上がりになりますが、色みはその作家によって異なり、鈴木さんは独自の調合によって、うっすらと緑がかったものにしています。
この調合が、難しいのだそう。枝や幹など部位によって灰の成分が異なるため、毎回が手さぐり。釉薬の調合、焼くときの温度、湿度、さまざまな条件によって、色はもとより、つや感も異なります。
いくつもの器から、見て、ふれて、選んだのは、胡粉のような白い土でつくった生地に、りんご釉をさらりとまわしかけたもの。つや消しの肌に、わずかに緑を残しています。
この世に、完全な白は存在しませんが、それはやはり白の世界。これから歳月を重ねていくと、貫入に染みこむ抹茶によって、どのように景色を変えていくのでしょう。いまはそれを楽しみに、お茶を点てているところです。
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